インターネットの急速な発達によって、私たちは世界中の情報をリアルタイムで見て、聞いて、話すことが出来るようになりました。
けれども、その流れが加速化することで、偏った考え方や安易な意見に流されやすくなったという側面ももっています。
こういった時代だからこそ、中立的な視点で語ってくれる池上さんの本というのは情報過多な現代人にとって大変ありがたいなものだなとつくづく感じました。
今、世界中で起きている問題の根っこの部分を10冊の本をベースにわかりやすく紹介してくれます。
中東問題、頻発するテロ、宗教、労働の問題など、世界中で起きている問題から、私たちに直接関わることまで幅広く紹介してくれています。
どの考えが正しいということではなくて、実際に世界を変えた10冊という視点から紹介されていますので、とても読み応えがあります。
世界は丁寧に読み解いていかなければいけないんですね。
まずはどのようなものがラインナップされているのかご紹介。
世界を変えた10冊
- アンネの日記
- 聖書
- コーラン
- プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
- 資本論
- イスラーム原理主義の「道しるべ」
- 沈黙の春
- 種の起源
- 雇用、利子および貨幣の一般理論
- 資本主義と自由
1冊目 アンネの日記
1947年出版。
一冊目はアンネの日記からです。「読んだことがある」という方も多いでしょう。私も高校生の時に読みました。
時は第二次世界対戦中(1939年〜1945年)。ナチスによる組織的な大量虐殺が行われていました。このホロコーストで犠牲となったユダヤ人は少なくとも600万人以上とされています。数だけ述べると問題が矮小化されてしまうので、別で例えますね。この数は現在の千葉県の人口にほぼ匹敵すると言えば、それがどれほどのものであったからわかるでしょう。
そしてこの出来事を世界に向かって最も強く訴えかけた本として存在するのが、アンネの日記だと池上さんは言います。
さらに、この本のもつ力によって戦後の中東問題がより根深いものになったのだと池上さんはいいます。
中東問題の発端は、第二次世界対戦が終わった3年後の1948年5月に遡ります。アラブ人が住んでいる土地にユダヤ人たちが国を作りました。それがイスラエル(神に勝つ者の意味:旧約聖書より)です。その後、イスラエルは国連が採択したユダヤ人の範囲を超えて、パレスチナ全域を占領。これが、今でも大きな問題になっています。
イスラエルがこれほど強気に出ていることが可能なのも、ナチスのユダヤ人弾圧が歴史の背景としてあるからではないかと池上さんは推察されています。そして、アンネの日記がユダヤ人弾圧の歴史の代弁者として今でもその役割を担わされているという見方です。
私たちはともすると、一面的で偏った見方をしてしまいますが、池上さんの最後の一文にはっとさせられました。
イスラエル政府によって壁で包囲されているパレスチナに住む人たちの中にも、アンネのように日記をつけている少女がいるかもしれません。もし、アンネがそれを知ったらなら、彼女はどんな日記を書いたのでしょうか。
2冊目 聖書
欧米文化の基礎を築いた本であり、世界で最も読まれた本として知られている「聖書」。
私たちの生活の中にもじつはたくさん入り込んでいて、「豚に真珠」や「目からうろこ」、あとは「砂上の楼閣」など。ちなみに、ディズニーランドのミッキーも天使ミカエルの名前が由来です。
キリスト教徒の信者数は世界最大です。その数、22億5000万人! 世界の3人に1人が信者ということになります。聖書には2種類あって、「古い契約」と「新しい契約」があります。これが、『旧約聖書』と『新約聖書』という呼び名の由来。
旧約聖書
紀元前4世紀までに書かれたヘブライ語およびアラム語の文書群
旧約聖書はもともと、ユダヤ教徒の聖典です。キリスト教から見た場合に古い契約として旧約聖書と呼ばれています。大乗仏教からみた小乗仏教という呼び方に近いですね。ちょっと貶めるみたいな。旧約聖書はユダヤ教徒、キリスト教徒双方にとって聖典です。生活上の規範が書かれている律法があり、有名なのはモーセが神から授かった十戒ですね。ちょっと紹介しましょう。
- わたしのほかに神があってはならない。
- あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。
- 主の日を心にとどめ、これを聖とせよ。
- あなたの父母を敬え。
- 殺してはならない。
- 姦淫してはならない。
- 盗んではならない。
- 隣人に関して偽証してはならない。
- 隣人の妻を欲してはならない。
- 隣人の財産を欲してはならない。
新約聖書
紀元1世紀から2世紀にかけてキリスト教徒たちによって書かれた文書。
イエス・キリストが誕生して、人間と神との間で新しい契約が新約聖書です。
これはキリスト教徒独自の聖典。キリストとは救世主という意味です。
新約聖書は全部で27巻。構成はこうです。
- マタイによる福音書
- マルコによる福音書
- ルカによる福音書
- ヨハネによる福音書
- 使徒言行録
- パウロの手紙
- ヨハネの黙示録
福音書とは「良い知らせ」という意味で、アニメ「エヴァンゲリオン」もギリシャ語で「良い知らせ」を意味します。新世紀福音書ってことなんですかね。
4つの福音書については、イエスの生前の行いを中心に書かれていますが、面白いことに同じエピーソドを取り上げながら、大小の違いがあるんです。もっとも難解とされているのはヨハネ黙示録で、予言の書だ!と考えるオカルトファンもたくさんいます。
この福音書には、あの有名な「受胎告知」のシーンがあります。レオナルド・ダビンチの有名な絵画がありますね。
私は2007年上野の東京国立博物館の特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」でこの受胎告知を観ました。
当時、イエスは当時「アラム語」を話していたというのが現在の定説です。
当時に言葉を聞いてみたい方はメルギブソン監督のパッションという映画をご覧になってください。イエス・キリストが十字架に磔(はりつけ)にされるまでの12時間を克明に描いたアメリカ映画です。全編アラム語で話されています。
私は、キリストが磔にあった後の、「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」をアラム語で聞いてみたい方は是非。
3冊目 コーラン(クルアーン)
西暦650年頃。イスラム教の聖典であり、預言者ムハンマドに対して下された天啓。
イスラム過激派によるテロが後を絶ちません。テロ行為は当然非難されるべきです。ただ、イスラム教は怖いという漠然んとしたイメージだけではなく、コーランにどのような内容が書かれているのかを知ることで、ジハードと呼ばれるもテロ行為がどう曲解されたのかを知ることも大切です。
知らない人が多いと思いますが、ユダヤ教とキリスト教とイスラム教は全て一神教であり、三つの宗教は「同じ神様」です。また、三つの宗教には、必ずカブリエルという大天使が登場します。
アッラーというのも、アラビア語で神様という意味。ユダヤ教の経典は『律法(キリスト教からは旧約聖書)』で、キリスト教では『旧約聖書』に『新約聖書』を加え、さらにイスラム教ではコーランを加え、3つ(旧約聖書、新約聖書、コーラン)を経典としました。ただ、イスラム教ではコーランが最も価値ある経典だと考えています。
イスラム教のイスラムとは「帰依」するの意味です。イスラム教によれば、神に最後に選ばれた預言者がムハンマドです。偶像崇拝を厳しく禁止してますから、その解釈の延長でムハンマド自体の顔を絵にすること自体が禁則事項となってます。
イスラム教徒が守るべき行い
- 信仰告白
- 礼拝
- 喜捨
- 断食
- メッカ巡礼
4冊目 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーが1904年~1905年に発表した論文。
彼は40歳の時に宗教が経済に与える影響を分析しました。最近は、19世紀半ばまでヨーロッパで営まれていた牧歌的な働き方を模索する日本人が増えてきました。
生活できるだけの収入があれば、それ以上働かないというスタイルです。日本のブラック企業、サービス残業など、日本の労働環境はウェーバーの語った「資本主義の精神」の言葉の通りです。
人間が存在するのは仕事のためであって、人間のために仕事があるのではないということである。これは個人の幸福という観点からみると、まったく非合理的であることをあからさまに示している。
西欧人の多くは労働を神からの罰だと考えますが、キリスト教のプロテスタントは労働は神から与えられた義務であると考え、その職業に全力を注ぎます。
ウェーバーによると資本主義の精神は、そもそもキリスト教のプロテスタントによって生み出されたものなのです。この考えがアメリカに渡り、宗教色が消え、職業の義務だけが残ったのだとウェーバーは指摘します。
5冊目 資本論
カール・マルクスの著作。1863年から1865年末までに執筆された草稿群。
「労働者としての私」について考えさせられます。
経済格差や金融危機を予測していたカール・マルクス。これは現実のものとなっています。
世界は、「たった62人」の大富豪が全世界の半分の富を持つという異常事態。パナマ文書は大変話題になりましたね。「トリクルダウン(富の浸透)」なんて起こりようがないっていうのがハッキリしたんですから。
資本家について、カール・マルクスはこう述べています。
人間の労働力を萎縮させ、労働力から正常な道徳的、肉体的発達条件と活動条件を奪う。それだけではない。それはまた労働力の早すぎる消耗と死滅を生み出す。
過労死ですね。
派遣労働を推進する資本家の論理はまさしく次の言葉に集約されます。
労働の生産力を高めて、商品を安くし、商品を安くすることで労働者自身をも安くすることこそ、資本の内的な衝動であり、かつ、常なる傾向なのである。
ただ、マルクスが描き出した資本主義の最期というものはありますが、その代替案を示したわけではないのです。マルクスの影響を受けて、ロシアではレーニンが、中国では毛沢東が社会主義革命を起こしましたが、言論統制と常軌を逸した個人崇拝が蔓延し、失敗に終わりました。
資本論の先は私たちが考えなければいけないといった言葉で結ばれています。
6冊目 イスラーム原理主義の「道しるべ」
1950年代 – 1960年代におけるムスリム同胞団の理論的指導者サイイド・クトゥブによる著作。
2001年の911を境に、世界はテロの時代に突入しました。新しい宗教戦争の始まりです。このイスラム過激派の源流を辿っていくとある一人の人間にたどり着きます。
それが、サイイド・クトゥブ。私も知りませんでした。彼が残した『道標』という本が世界をテロの時代に変えてしまったと本書では語られています。
サイイド・クトゥブは1906年生まれ。アメリカ留学後、ムスリム同胞団に加入し、イスラム原理主義の思想を広めていきます。クトゥブは「イスラムの教えこそが世界で唯一絶対の救いである」と主張しました。
もともと、イスラム世界では、異教徒の侵略に対して、自分たちの土地を守るために戦うことをジハードと呼びました。これが、クトゥブによるとイスラムの教えこそが絶対であり、イスラムが世界を牽引すべきだと主張します。世界中をイスラム教原初の形にしなければいけないというのですね。こうなると、ジハードの対象は全世界となります。
911のテロを起こした、オサマビン・ラディンもクトゥブの道標の思想に影響を受けた人物とされています。
7冊目 沈黙の春
1962年に出版。生物学者レイチェル・カーソンの著書。
なんとも詩的なタイトルですが、実は環境問題を取り扱った1冊。アメリカの雑誌「ニューヨーカー」に連載され、ベストセラーになります。
自然は、沈黙した。薄気味悪い。鳥たちはどこへ行ってしまったのか。
みんな不思議に思い、不吉な予感におびえた。裏庭の餌箱は、からっぽだった。
ああ鳥がいた、と思っても、死にかけていた。
ぶるぶるとからだをふるわせ、飛ぶこともできなかった。
春がきたが、沈黙の春だった。
この最後の一句が、書名の由来です。人間たちによって新しく作り出された農薬(化学物質)によって自然界は汚染され、春になっても生き物の声が聞こえない。
「沈黙の春」がやってくるかもしれないという警鐘を鳴らした本だったんですね。戦争はティッシュやレトルト食品、インターネットなど多くの発明品を生み出しましたが、化学物質から成る合成殺虫剤(農薬)も、この時代に生まれました。
農薬の危険性をヒステリックに叫ぶのではなく、化学物質を大量に使うのではなく、弱い効き目の農薬を最低限使い、あとは自然を汚染しないやり方を具体的に説いています。
8冊目 種の起源
イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンにより1859年11月24日に出版された進化論についての著作。
「種の起源」が出る以前、キリスト教徒たちは「地球上の生き物は神が創造した」と信じていました。『旧約聖書』によれば、神は6日間で世界を創造したとされています。ダーウィンは考えました。様々な生き物を見ていると、それぞれが少しずつ変化することで多様な種が生まれたのではないかと。
つまり、地球上の生き物は、神が創造したものではなくて、自然界で「進化」したというわけです。
ダーウィンのこの発見がなければ、その後の遺伝学、生物学、さらにはポケモンの進化という概念も存在しなかったかもしれません。
この考えを社会に単純に当てはめたのが「社会ダーウィズム」です。人間社会の弱肉強食を正当とする考え方です。
これは植民地主義や人種差別の理論的根拠として使われたこともあったそうです。
9冊目 雇用、利子および貨幣の一般理論
イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが1936年に著した経済学書。
学校の社会科で習うお話でこんなものがありました。
景気が悪くなったら、政府が公共事業などで経済を活性化させる。金利を下げて企業の投資を活発化させる。これを考え出したのが、ジョン・メナード・ケインズです。
このケインズ経済学が浸透したことで、各国政府は積極的に財政支出を進め、恐慌の発生を未然に防ぐことが出来るようになりました。こうして資本主義は生き延び、現在に至っています。
われわれが生活している経済社会の際立った欠陥は、それが完全雇用を与えることができないこと、そして富と所得の分配が恣意的で不公平なことである。(第24章)
古代エジプトのピラミッド建設は、かつては王の浪費のための非人間的な奴隷労働と見られてきましたが、最新の研究結果では、農閑期の働き場所確保という景気対策だったことがわかってきました。古代エジプトでもケインズ理論は実践されていたんですね!
10冊 資本主義と自由
アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンの代表作です。
彼の思想は「リバタリアニズム(自由至上主義)」と呼ばれます。英語に弱い私としは、このネーミング、脳みそを食べちゃうバタリアンを彷彿とさせます。
簡単に言ってしまえば、政府を信じず、民間企業の活力に絶大な信頼を置くやり方で、他人に危害を及ぼさない限り、何をやってもOK!な社会が望ましいということです。麻薬だって合法化すれば闇社会の儲け口がなくなるし、犯罪は減る!年金制度や社会保障政策は政府がやるべきではなく、民間企業に任せた方が効率的など。。。まさに極論中の極論です。こうした考えの中から生まれたのが、現在の非正規社員や派遣労働というシステムです。
また、所得が高くなれば税率も高くなる「累進課税(るいしんかぜい)」も効果がないと彼は言いました。これから富を築こうとする人の重荷になってはいけない、経済発展に水を差すというのです。
以上、大変長くなりましたが、かいつまんで解説しました。
是非、読んでみてくださいね!
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