小学校時代、夏休みを終えて学校に出てくると先生が開口一番に言う言葉がありました。
「夏休みは本当にあっという間でしたね!二学期の始まりです」
いつもこのあっという間をかなり強調する。確かに当時は短いと感じたけれど、やはり一カ月の休みは長い。あっという間ではなかった。わざわざ口に出していうほどのことじゃない。もしかしたら、大人は違う時間を生きているかもしれないとSF映画の世界に入り込んだような心持ちで密かに思っていました。
後になって知ったのが、時間感覚定理という心理法則。今はジャネーの法則というみたいだけれど、年を取るほど時間の速さが加速するっていうすんごい法則。昔を振り返り、年々濃縮される自分の過去がその人生の速度を感覚的に速めているとか。
ジャネーの法則
ジャネーの法則(ジャネーのほうそく)は、19世紀のフランスの哲学者・ポール・ジャネが発案し、甥の心理学者・ピエール・ジャネの著書[1]において紹介された[2]法則。主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く評価されるという現象を心理学的に説明した。簡単に言えば生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する(年齢に反比例する)。
例えば、50歳の人間にとって1年の長さは人生の50分の1ほどであるが、5歳の人間にとっては5分の1に相当する。よって、50歳の人間にとっての10年間は5歳の人間にとっての1年間に当たり、5歳の人間の1日が50歳の人間の10日に当たることになる。
これを痛感するのが、まさに30代。人の体は28歳を期に老化を始めます。言うなれば肉体の折り返し地点。老化を感じるとともに、過去を振り返りはじめるので、ジャネーの法則をこれまで以上に意識し始める年代になる。30代にいきなり襲ってくる老化とジャネーの法則のダブルパンチ。このダブルパンチを知らない人が多いような気がする。
この2つは20代までの夢を諦めるのに十分な動機になるし、新しい挑戦の意欲を叩き潰す。普通に受け止めるだけでは、物悲しくなる。最近の若者はなんて言葉は、この老化とジャネーの法則に撃ち抜かれてしまった人の悲しい言葉だと思う。
今という言葉の重み
時間の流れが速く感じるのはもう止められない。だからこそ、今に集中するべきなんだ。今に集中しろというのはスポ根だけの言葉じゃない。ジャネーの法則に浸かり切った老人たちの経験論なんだ。先人の知恵といってもいい。
歳を重ねるほどに、「今」という尊さがどこまでも眩しくなってくる。同時に体はどんどん鈍重になってくる。これが、人の心に与える影響は計り知れない。時間感覚は速度を増して、もう片方の体はは置いてきぼりになるんだから。
30代になって、少し憂鬱な気分だなという人がいれば、このダブルパンチのせいかもしれない。この憂鬱から逃れる術はない。今に集中するか、諦めて達観するかだ。ただ、30代で諦念を悟るのは早すぎる。まだまだ泥仕合が出来る年齢が30代、40代、50代だ。そういう観点でアンチエイジングも考えたらいいのに。
私は今の尊さを教えてくれるジャネーの法則と老化に心の底から感謝したい。小さく皺くちゃなって死ぬまで、今を生きること。