寄席である2人の噺家の話を聞いた 夢の終着駅

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寄席である2人の噺家の話を聞いた

寄席(よせ)、つまり落語を聞きに演芸場へ足を運びました。

この回で印象に残ったのは二人。
一人目は、私が目当てだったトリを務める真打の噺家(はなしか)で、もう一人は全然無名で私は聞いたことのない噺家(はなしか)でした。

最初に説明しておくと、二人とも噺家の階級では、真打ち(しんうち)と呼ばれる場所に座っています。真打ちというのは、噺家の階級でも一番上。寄席の番組(プログラム)でも一番最後に出る資格をもつ落語家です。全ての真打ちが寄席のトリを務められるほど実力があるとは言い難いのが実情ではありますが。。。

寄席(よせ)というのはいろんな落語だけでなく、浪曲・漫才・マジック・紙切りなどコンパクトに設計された素敵なエンターテイメントで、私は大好きです。

さて、その寄席の最後はこうでした。

トリを務める大御所の噺家が登場しただけで、会場の熱気は増し、威勢のいい掛け声まで飛びます。もちろん、真打ちですから話はよどみなく骨太で要所要所でしっかり泣き笑いさせてくれる。さすが名人芸。

これを生で聴きたくて私も足を運んでいるんです。これが一人目の噺家の話。

寄席が終わって帰路に着く。

私は電車の中で寄席のプログラム表を見ながら、どんな噺家がいたかを車中で振り返ります。そこで、ふともう一人の噺家のことを思い出したのです、とても暗い感情とともに。

その噺家は、寄席の中盤くらいに登場してきました。

登場の第一声は乾いた刃物のような声で「こんな私でも真打ちになれるんです」と。

嫌な予感がしました。

会場を睨みつけるようして彼は続けます。

「この後、仕事がふたっつも入ってます。ええ、ふたっつもですよ!真夜中にね。落語じゃありませんよ。駐輪場です」

なんだか脅すような口調で、観客側は果たして笑っていいのか、笑ってはいけないのか混乱している様子。

微妙な空気が流れています。いや、少し怖かった。安っぽいオレンジの着物がギラリと壇上で光ります。

芸の無い噺家というのはとにかく会場を力技でねじ伏せようとします。

特徴としては終始声が大きく抑揚が少ない。

また、登場早々にお客さんを軽くいじることが多いけれども、いじり方が毎度同じ愛想が尽きる。

「笑えよクソが!」というのが、下手な噺家には透けて見えるんです。

今回はそれが今までみたどの噺家よりも顕著に出ていて恐怖すら感じました。

お目当ての噺家はやはりサービスとして受ける側としては、最高でした。支払った金銭以上の価値を感じることができました。

それでも、その寄席で最初に思い出すのは、そのオレンジ色の噺家のことです。

指を二本突き上げて「この後、仕事がふたっつも入ってます。ええ、ふたっつもですよ!真夜中にね」と語った噺家の正直な心の有り様と歪さに学ぶものが多かったような気がします。

学ぶものが多かっただなんて随分と上から目線と言われそうですが、私はこの時の情景を何度も思い出しては噛み締めています。

大切な何かが含まれているような気がしてならないからです。

2人真打ちはそれぞれ同じように夢を見て、落語の世界に飛び込んだんでしょう。

前者は名実ともに真打ちに。

後者は芸歴の長さを勘案され真打ちになりました。

夢に飛び込もうと思った時に、その対象に適正があるかどうかを正しく洞見するのは、自分でも他者からでも並大抵のことではありません。

オレンジ色の噺家は見過ごせない何かを、初対面で観客に感じさせるほどの適正の無さ。

壇上に上がって話すという夢は叶えられたものの、笑わない観客を前にし続けることで何かが狂ってしまったのかもしれません。

どんな形であれ、2人とも夢が叶ったんです。

思い描いたものと距離があるにしても、前座見習いが敷いた座布団の上で話ができるところまで辿り着けた。

夢が叶う叶わないといった話を見聞きすることは多いですが、カタチになった夢という現実が、二手に分かれたものたった一晩で見させてもらったという点において、印象に残る寄席でした。








“おやゆび文鳥”

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