[書評] 君たちはどう生きるか 漫画

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[書評] 君たちはどう生きるか

話題の作品で、原作吉野源三郎の小説を漫画化したもの。

1937年に新潮社から出版。

価格は少々高めかな。

読み終えた感想から述べると、何てことはない、当たり前のことを仰々しく語ってるだけの漫画だなぁなんて思ったりもしましたが、そういう感想の持ち方こそが、干からびた大人の感想そのものであることに気づかされ、一人恥ずかしく思いました。

確かに思想的な偏りを感じる箇所があるものの、一部の言説を抜き出して総合評価とするのは行き過ぎかもしれません。

もちろん、Amazonレビューなどで低評価をつけている方のレビュー内容もなかなか筋が通っているものも多いのです。



地道説は古代ギリシャ時代に発見されていた

主人公コペル君の愛称の由来は、キリスト教的世界観から天動説が主流であった当時、それに対して地動説を説いたニコラウス・コペルニクスの愛称から取ったもの。

本作中にコペルニクスが地動説を唱えるまで昔の人はみんな、太陽や星が地球のまわりをまわっていると、信じていたというくだりがありますが、これは間違いです。

後にコペルニクス的転回とも言われるこの一連の出来事、キリスト教に対する科学者の挑戦というモデルで語られることが多いものの、これは19世紀以降に作られたストーリーということは覚えておきましょう。

コペルニクスが登場する2000年前にすでに地動説を唱えた古代ギリシャの天文学者がいました。

彼の名はアリスタルコス。古代のコペルニクスとも呼ばれる人物。ただし、この時代も万学の祖と謳われるアリストテレスの天動説が有力だったため、アリスタルコスの地動説は忘れ去られていきました。

これが史実です。

また、宗教=悪でもありません。悪しき側面もありますが短絡的です。

キリストが布教した際の言説を聖書で読んだり、原始仏教の視点から釈迦の教えなどを読むと、メジャーな宗教が今日まで影響力を有している理由もわかるはずです。

その後に派生したカルト、セクト、ドグマなどが問題を起こしているのですから。

聖人から凡夫まで世界への影響の程度の差はあれ、誰もが時代の申し子であることは覚えておかなければいけません。

雰囲気に流される日本人

本作でも雰囲気に呑み込まれる子供達の様子をよく描いています。

日本人の国民性を表した沈没船のジョークをご存知でしょうか。

船が沈没しかけている場面でのこと。
ボートには、アメリカ人、イギリス人、ドイツ人、イタリア人、フランス人と日本人が乗っています。
船が沈みかけているので、船長は乗客に海に飛び込むように説得しています。

アメリカ人に対しては、 「あなたは飛び込めばヒーローになれますよ」 と。

イギリス人に対して 「あなたは紳士になれる」 と。

ドイツ人に対しては 「あなたは、飛び込まなくてはならない。それがルールだ。」 と。

イタリア人に対しては「後に多くの女性から愛されますよ」と。

フランス人に対しては「飛び込んではならない」と。

そして、日本人に対しては 「ほかの人はみんな飛び込んでますよ」と言いました。

苦笑いするしかありませんが、国民性を言い当てているなと私は感じています。

どうでしょうか。秩序を重んじる国民性であると同時に責任を免れるための臆病さからルールを遵守するといったネガティブな面も持ち合わせているように感じます。

卑怯さについて

本作のレビューでは、教条主義的だ!共産主義だ!ナポレンは英雄ではない!現代のいじめはもっと複雑だ!などといった言葉もならびますが、思想的なもの歴史観的なものは、インターネットの発達後どうなってきたかみなさんご存知でしょう。

こういった考え方をネット上で議論することの不毛さを熟知しているはずなのです。

どうして不毛なのか?それは匿名という卑怯さから来ているのです。匿名であれば、何を言っても許されると思っているのです。最近はTwitterを始め、かなり改善しつつあるような気がしますが。

ですから、一部を切り取って批判するやり方は、ある意味自分を麻痺させる賢い『生き抜き方』なのかもしれません。

私が感じるのは、卑怯さが有効であることを知った人間が次に何をし出すかということです。次に人を罰したいという欲求に駆られるのです。

ですから、ロジカルで筋が通っているようなレビューにも『誰かを罰したいというグロテスクな欲求』が見え隠れしているように思えるのです。

親指一つで誰かを罰することの出来る世の中というのは怖いですね。

読後の感想をそろそろまとめます。

本作品は、私たち自身の『卑怯さ』について突きつけられているような気がするのです。誰かを助けてあげなければいけない時、ちょっとした勇気があれば出来たこと、あなたにありませんか? 私はあります。

叔父とあれだけ会話や文通を通して英雄的な生き様に憧れていたコペル君。

それを活かすべき大切な場面でたった一言の勇気がなかった為に木っ端微塵に砕かれたコペル君の心。

コペル君の傲慢さ、卑怯さ、情けなさのどれもが私の胸を打つのです。

彼の凡人ゆえの弱さが、リアルだなと私は思うのです。

それを思い起こさせてくれただけでも、本書を読んでよかったなと考えています。







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